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7月のごあいさつ

小さな下駄をカタカタ鳴らし、家の前の坂を駆けおりる。

目的地は坂の下を左に曲がった先にある小さなお店屋さん。
夕方のおつかいは大概お醤油や、豆腐、もやし、お揚げだった。
子供が理解不能な言葉「豆腐半丁」とか「醤油を五合」。

呪文のように呟きながら覚えたての言葉と竹かごを引っさげて走る。
すぐ近くに一軒しかなかったその店の間取りもおばちゃんの笑顔もなぜか今でもしっかりと記憶にある。

白いタイルの中にゆらゆらと泳ぐ豆腐。

おばちゃんは器用に手のひらにすくい上げ、『はい、豆腐半丁!』と竹かごに入れてくれた。

遠い記憶を手繰り寄せ夏を想う。
どうしてだろう……、幼い記憶は鮮明に色、形、香り、はっきり覚えている。
竹かごの編み目や握り手の感触さえも。

季節で遣い分けされる日本の道具たち、それらは薄紙を重ねるように子供時代に吸収され、それが感性の素になる。

うちわ、蚊帳、葦簾、そして竹籠
夏は来ぬ。

久保田 真弓