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6月のごあいさつ

『あの実、なーに?』と訊ねると
祖母は『時計草だよ』と。

果物の木々を庭に植えることが好きだった父は日曜大工で'時計草`の棚を作り、初夏の頃には緑の棚から丸っとした実がたくさん下がっていた。
まだ熟さない青い実の頃は気付かなかったが、日を追う毎に色づいて赤紫の実に変わった。

色づくだけではない。
たまに棚から果実がポトリと落ち、踏まれ、中から黄色い果肉に黒い種というカタチでその正体を露わにした。
子供にとってその様子は異様にうつり、香り共々苦手だった。

その不思議な実を美味しそうに食べるおばあちゃんにちょっと引き気味だった私。
その後、子供たちに不評だった時計草の棚は外された。

あれからその果物をすっかり忘れていたが、大人になって自販機の中のミックスフルーツの缶を一気に飲んだある日のこと。

懐かしい香りと独特の風味を舌が感じ取り、缶の表記を慌てて探した。

パッションフルーツ。
これ、これ、この味知っている!!
時計草はパッションフルーツだった。

あの苦手なフルーツ。
大人になって味覚の幅が広がり、記憶のずっーと深いところに眠っていた風味が目覚めた。

6月の梅雨の晴れ間、時計草の棚の隙間から降り注ぐ日差しは今でも目に浮かぶ。

ぼんやりとしか思い出せなくなった祖母の顔と時計草、一雨ごとに夏が近づく。

久保田真弓