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5月のごあいさつ

夏と冬、アパルトマンを少しのあいだ借りて過ごすパリの街。
最初の頃こそ感動して見ていたノートルダム寺院も何度か行き来するうちにシテ島の風景の一部になっていた。
4月半ば早朝のテレビはオレンジ色の炎に包まれたノートルダム寺院を映しだした。
凱旋門やエッフェル塔と違い、セーヌ川を行き来すると当たり前に目に入ってくる
ノートルダム寺院はきっとパリの人々にとって現風景。

炎に巻かれる寺院を見ながら聖歌を歌う人々の姿が切なかった。
八世紀を超えて存在したものをリアルに喪失する場面を見てしまった世界中のショック。
悲しみの深さは言葉にし尽くせない。

当たり前にあるは当たり前ではない。
当たり前は維持され、気を配られて人々の生活の中に存在する。
建築物もましてや人も、日々の中の存在は全てが尊い。
5月の空に青葉を広げる大木はそんな歴史を静かに見てきたに違いない。

高村光太郎の詩「雨にうたるるカテドラル」をしみじみと読み返してみる。

 

久保田 真弓