• 六月のごあいさつ

    九州に小さな家がある

    コロナ禍に少し手を入れてシンプルな室内作りにした
    先日久しぶりに仕事を絡めて訪ねたその家は扉を開けたがクールに沈黙を決め込んでいる

    それはそうだ、だって一年ぶり
    全ての窓を開け放し空気を入れ替え、そそくさと掃除を始める
    家は最初に私を拒否し、私は私でオロオロと機嫌をとるように掃除するがこのところ再訪のパターン

    家って何だろう
    箱でありながら、単純な箱ではない
    人が触れ、人が動き
    温度や風を取り入れてこそ家なのだ
    それぞれ個性に合った暮らし方をし、
    その人が快適だったらそれでいい
    それよりひと気のない家ほど切ないものはない
    その家で人の成長を見つづけ、笑い声や嘆きやため息を全て引き受けてきた家族の家
    そこで一緒に時を刻んできたのだから

    田舎道、人が住まなくなった家が廃屋になり
    所在なさげに建っている
    あっ、雨
    青葉に重さを落としながら雨が降りだした
    どうやら梅雨に入ったようだ

             久保田真弓

Story
寄稿

萬器三十周年に添えて

 土と火と水、そして手技。器は、自然と人間の接合点で生まれる表象である。その意味や価値を無言のうちに語りかけてくるから、私たちは器という存在に惹かれるのかもしれない。

あえて「器」と書いたのは、このたび三十周年を迎えた「萬器」の名前にちなんでのこと。もちろん、「器」は、工芸から生み出されるすべてのものに置き換えられる。今日まで三十年の長きに亘り、「萬器」が扱ってきた表象のかたちは数限りない。それらひとつひとつが誰かの手に渡り、親しく使われ、愛されながら、この世界のあちこちに点在する様子は何かに似てはいないか。無数に散らばる星々を線で結んだとき、まなうらに浮かび上がる図形。それは私に星座を想起させる。

思えば、「萬器」は、歳月と空間をつうじてものとひとを交差させ、繋ぎ合わせながら拡張する役割を任じている。着々と、黙々と。これもまた創出の表現である。

平松洋子 Yoko Hiramatsu

作家、エッセイスト。東京女子大学文理学部社会学科卒業。2006年『買えない味』でBunkamura ドゥマゴ文学賞、2012年『野蛮な読書』で講談社エッセイ賞、2022年「『父のビスコ』で読売文学賞を受賞。『食べる私』『日本のすごい味』『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け』など著書多数。

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