• 七月のごあいさつ

    七月の挨拶文をアップするころ、たぶん私はまだパリにいる
    「あら素敵!」とか言われちゃうけど覗いてみると中身はいたって地味
    (*インスタ kubota_banki)

    フランス語は喋れない、せいぜい丸暗記の必須単語1〇言くらいと
    稚拙な英語で夏冬の2回かれこれ20年になる、そしていつも特別な目的は持たない旅だ

    誰かが言っていた
    「パリって街を歩くだけで不思議とチャージされる原始的エネルギーがあるところ」と、
    合点がいく表現、そうパリとはそういうところ
    人間という動物が人間らしく暮らす森だ

    ご機嫌なマルシェのおじさんがいたり、不機嫌そうな薬局の女店員だったりと
    1人1人の感情は自由で、しかもはっきりとした存在感がある

    今の日本は便利この上ない場所だけど時々どうしようもなく息詰まることがある
    日本とは何かが違うパリの街、便利を手放し
    全身の感覚をフル活用
    ましてや私の仕事は感覚的で形容し難い仕事だから
    異空間の街を本能的な感覚で彷徨い歩く

    アパルトマンの階段で、すれ違い様に青年が
    『ボンジュール! ボンジョネ(良い一日を)』
    と軽やかに挨拶していく
    とっさに『メルシー!』としか出ない私
    『あなたもね!』って言えずに悔しい…

    今日から7月、日本はまだ梅雨空だろうか

              

                               久保田真弓

Story
寄稿

萬器三十周年に添えて

 土と火と水、そして手技。器は、自然と人間の接合点で生まれる表象である。その意味や価値を無言のうちに語りかけてくるから、私たちは器という存在に惹かれるのかもしれない。

あえて「器」と書いたのは、このたび三十周年を迎えた「萬器」の名前にちなんでのこと。もちろん、「器」は、工芸から生み出されるすべてのものに置き換えられる。今日まで三十年の長きに亘り、「萬器」が扱ってきた表象のかたちは数限りない。それらひとつひとつが誰かの手に渡り、親しく使われ、愛されながら、この世界のあちこちに点在する様子は何かに似てはいないか。無数に散らばる星々を線で結んだとき、まなうらに浮かび上がる図形。それは私に星座を想起させる。

思えば、「萬器」は、歳月と空間をつうじてものとひとを交差させ、繋ぎ合わせながら拡張する役割を任じている。着々と、黙々と。これもまた創出の表現である。

平松洋子 Yoko Hiramatsu

作家、エッセイスト。東京女子大学文理学部社会学科卒業。2006年『買えない味』でBunkamura ドゥマゴ文学賞、2012年『野蛮な読書』で講談社エッセイ賞、2022年「『父のビスコ』で読売文学賞を受賞。『食べる私』『日本のすごい味』『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け』など著書多数。

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