• 二月のごあいさつ

    仕事柄、地方を訪ねることが多い

    地方都市に行くとたまに路面電車に出くわす
    函館・広島・鹿児島など
    一両編成か、二両編成でその都市らしい風景にゆっくり街ををぬっていく行く姿が好きだ
    一歩踏み込んで路面電車に乗ってみると、
    その街らしい様子がもっと身近に見えてくる
     「◯◯高校前〜」でザザッーと学生服が乗り込んできて、若々しい騒めきになり、
    「◯◯商店街入り口」で一気に暮らしが反映された様子に変わる
    聞くとはなしに耳に入ってくる方言もいい、何だか好きだなぁ路面電車

    ほとんど地方まわりは最寄りの空港からレンタカーが多い
    総じて作家さんの仕事場は山あいにあるからだ

    好きな地方の風景で一番最初に目に浮かぶのが能登半島の家並みだ
    山あいを縫って走り、ぽつりぽつりと黒々とした瓦と塗料が軽く塗れた板塀、いかにも日本家屋らしい風景が現れる

    山合の深い緑と艶のある黒瓦と茶色の家屋、
    思わず車を止めて見入ってしまうくらい
    美しい…。

    あの風景は消えたのだろうか
    耐震構造の建物は残ったというが…
    取り戻せない美しさがとても切ない

    厳しい寒さはあとひと月で終わる
    せめて今年の二月は緩んでほしいと願う

                 久保田真弓

Story
寄稿

萬器三十周年に添えて

 土と火と水、そして手技。器は、自然と人間の接合点で生まれる表象である。その意味や価値を無言のうちに語りかけてくるから、私たちは器という存在に惹かれるのかもしれない。

あえて「器」と書いたのは、このたび三十周年を迎えた「萬器」の名前にちなんでのこと。もちろん、「器」は、工芸から生み出されるすべてのものに置き換えられる。今日まで三十年の長きに亘り、「萬器」が扱ってきた表象のかたちは数限りない。それらひとつひとつが誰かの手に渡り、親しく使われ、愛されながら、この世界のあちこちに点在する様子は何かに似てはいないか。無数に散らばる星々を線で結んだとき、まなうらに浮かび上がる図形。それは私に星座を想起させる。

思えば、「萬器」は、歳月と空間をつうじてものとひとを交差させ、繋ぎ合わせながら拡張する役割を任じている。着々と、黙々と。これもまた創出の表現である。

平松洋子 Yoko Hiramatsu

作家、エッセイスト。東京女子大学文理学部社会学科卒業。2006年『買えない味』でBunkamura ドゥマゴ文学賞、2012年『野蛮な読書』で講談社エッセイ賞、2022年「『父のビスコ』で読売文学賞を受賞。『食べる私』『日本のすごい味』『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け』など著書多数。

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